花清

プロローグ

芥川誠は、意識の薄れていく心地よさに任せながら、白い壁を見つめている。
外の蒼い香りを、細めた目で追うように。

そのそばで椎名繭子は、携帯の受信Boxを何度も呼び出した。

（父親が急遽入院、あとで連絡します。)

直樹からその後連絡は無い。

何日か前に、戯れた時間を否定しているの？

そこにいない直樹に問い掛ける繭子。

第一章　始点

芥川誠の生まれ育ったのは瀬戸内海に浮かぶ島。

今は、大きな橋で本州と結ばれ大変便利になり、大都会からの移住組がいたり、

別荘が建ったり、海の塩を精選する工場が出来たりとにぎやかになりました。

芥川誠の生まれ育ったのは瀬戸内海に浮かぶ島。

今は、大きな橋で本州と結ばれ大変便利になり、大都会からの移住組がいたり、

別荘が建ったり、海の塩を精選する工場が出来たりとにぎやかになっているようだが、

誠が育った頃は、不便だったが、自然な生活をしていたような気がする。

誠の父親は、腕のいい漁師だった。

海の男らしく口数が少なく情に厚い男で、亡くなるまで良く働いた。

母は、小金を貯める度に土地を買うような事業家だったので、田舎でも比較的楽な年少時代を過ごした。

誠は、旧制中学校を卒業後、公務員の試験に合格して島に戻り、あいた時間は海の男と呼ばれる父の仕事も手伝った。

体格も良く堅実で人目を引く顔立ちだったため、浜の女性に人気だった。

誠さん、今日はいっしょにお祭り行こうよ～

しかし、父に似て無口だったためか、誠には浮いた話はなかった。

ところが、２６歳になって、誠は突然恋に落ちた。

当時、許されるはずの無い恋だった。

曾我部糸子。

5歳上の上司で、妊娠中に不幸にも後家となり、幼い２歳の息子と実家に戻り　

ひっそり離れに暮らす糸子。

その年の４月に赴任してきた糸子と　同じ事務所で仕事をするようになった誠。

二人は年齢も若く近いほうだったので、昼休みにいろいろな話をするようになっていた。

生い立ちから、好きな食べ物までお互いのことがわかるくらいに。

糸子は、静かな控えめな女性だったが、二人の時は良く話し、よく笑った。

笑う横顔に惹かれ、糸子を見つめる自分に気が付く誠。

首を軽く振って　いつもわれに返る誠。

８月の旧盆が終わったある日の台風の夜。

大きく木々を揺らしていた風が内輪になり、雨の音が激しくなった。

瀬戸内の島の空を、台風が通りすぎようとしている。

台風の強風を心配し、糸子を訪ねてきた誠は、玄関を開けるなり

ほっそりした白いワンピース姿の透けるような白い肌の糸子を抱き寄せる。

「糸子さん、好きだ。」

自分の言葉に驚くほど力が入っていることに気がつき、さらに目頭まで熱くなっていく誠。

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